【全4回】北海道の昆布漁を訪ねて 1/4
第1回|根室・歯舞の長昆布漁
~10mを超える昆布を、どうやって採るのか~
北海道の昆布漁は、どこでも同じではありません。
昆布が違えば、育つ海も違う。
海が違えば、使われる船や漁具、採り方まで違います。
今回から全4回にわたり、北海道各地の昆布漁について、実際に産地で見てきたことと、北海道や水産研究機関などの資料をもとに少し深く掘り下げてみたいと思います。
第1回は、北海道・根室
歯舞地区で行われている「長昆布漁」です。
今回、根室・歯舞地区を訪れ、長昆布の漁に使われる船や漁具、そして実際の漁の様子を見る機会がありました。
船に立て掛けられている、何メートルもある一本の棹。
その先には、大きな金属製のカギが付いています。
私たち昆布屋が普段目にするのは、乾燥され、選別され、規格ごとに整えられた昆布です。
しかし産地を訪れると、その姿になるはるか前に、
「その海で、その昆布を採るために受け継がれてきた道具と技術」
があることに気づきます。
今回は、根室・歯舞を代表する「長昆布」と、その漁について少し深くご紹介します。
世界でも特に長く成長する「長昆布」
「長昆布」という名前の通り、この昆布は非常に長く成長します。
標準和名を「ナガコンブ」といい、北海道の資料によると、成長した葉の長さは通常4~12m。
なかには15mを超えるものもあり、世界の昆布属の中でも最も長く成長する種類とされています。
主に釧路・根室地方の太平洋沿岸に分布し、さらに貝殻島、歯舞群島、国後島、択捉島周辺にも分布しています。
成長期には非常に速く伸び、北海道の研究では、一日に最大13cmの伸長が観測された例もあります。
もちろん、水温や光、栄養塩、海水の流れなどによって成長速度は変わります。
それでも、海の中で10mを超えるまでに成長する昆布の生命力には驚かされます。

10mの昆布は、水深10mに生えているわけではない
ここで面白いのが、
「10mの昆布だから、水深10mの海に生えている」
というわけではないことです。
北海道の資料によると、長昆布の主な漁場は水深3mより浅い岩礁帯です。
海水の流れが強く透明度の高い貝殻島周辺などでは、水深6mほどまで群落が形成されることもあります。
つまり長昆布は、海底から水面へ真っすぐ立っているわけではありません。
岩礁に付着した根元から、非常に長い葉を海流に乗せるようにして、海中をなびきながら育っています。
この独特の生え方を知ると、歯舞で使われている漁具の形にも理由があることが分かってきます。

船に立て掛けられた、長い「カギ棹」
今回撮影した写真で、ぜひ注目していただきたいのが船に立て掛けられた長い棹です。
その先端には、大きな金属製のカギが付いています。
北海道ぎょれんが歯舞地区の長昆布漁を取材した記録では、約5mの棹の先端にL字型のカギを取り付け、岩場に生えている昆布へカギを掛けて引き揚げる漁法が紹介されています。
一方、北海道立総合研究機構が道東の長昆布漁を調査した資料を見ると、漁場によっては6~9mほどの柄を使い分けています。
つまり「長昆布漁の棹は必ず何メートル」と決まっているわけではありません。
水深や海底の地形など、その漁場の条件に合わせて道具も変わります。
浅い場所では、海面になびいている長昆布をカギですくい寄せ、船へ引き寄せてから人の手で引き揚げます。
さらに深い漁場では、「ねじり(かたしば)」と呼ばれる別の道具も使われます。
長昆布の漁は、一本の道具だけで行われているわけではないのです。

10mもの昆布を、人の力で船へ
実際の漁を想像すると、この仕事の大変さが分かります。
長昆布は10mを超えることがあります。
しかも海から上がったばかりの昆布は、大量の海水を含んでいます。
乾燥した昆布しか見たことがない方には想像しづらいかもしれませんが、これを船へ引き揚げるのはかなりの力仕事です。
さらに、ただ力任せに引っ張ればいいわけではありません。
途中で昆布を切ってしまわないよう、慎重に扱いながら船へ取り込んでいきます。
今回撮影した写真を見ると、船の中央には収穫された長昆布が何重にも重なり、山のように積み上げられています。
一本の長い棹とカギを操り、これだけの昆布を海から引き揚げていく。
まさに長昆布の産地ならではの漁の光景です。

昆布漁は「採ったら終わり」ではない
そして、船いっぱいに昆布を積んで港へ戻っても、仕事は終わりではありません。
むしろ、ここからも大切な作業が続きます。
水揚げされた長昆布は、昆布同士が重ならないように広げて水分を飛ばし、その後さらにしっかりと乾燥させます。
乾燥した昆布は長さを整え、品質を確認し、規格ごとに選別していきます。
道総研の資料では、道東の長昆布は乾燥後に105cmに切断し、規格別に選別・梱包する工程も紹介されています。
海の中では10mにもなる昆布が、こうした数々の工程を経て、ようやく私たち昆布屋が普段目にする「商品としての昆布」になります。

一本の漁具を見ると、その海が見えてくる
今回、根室・歯舞で長昆布漁の船と道具を見て、改めて感じたことがあります。
漁具は単なる「昆布を採るための道具」ではありません。
長昆布が非常に長く成長すること。
浅い岩礁帯を海流に乗ってなびいていること。
漁場によって水深が違うこと。
そうした根室の海の特徴に、人が長い年月をかけて合わせてきた結果が、あの長いカギ棹なのだと思います。
そしてこれは、長昆布だけの話ではありません。
北海道には、日高昆布、利尻昆布、羅臼昆布、真昆布など、それぞれ特徴の異なる昆布があります。
実は、それぞれの産地を調べていくと、使われている漁具も驚くほど違います。
なぜ、同じ「昆布漁」なのに道具まで違うのでしょうか。
そこを調べていくと、
昆布の長さ。
漁場の水深。
潮の流れ。
海底の地形。
そして「どの昆布を採り、どの昆布を残すのか」。
さまざまな理由が見えてきます。
次回予告|日高と利尻。同じ昆布漁なのに、なぜ道具が違う?
今回、歯舞で見たのは長い「カギ棹」でした。
では、北海道のほかの昆布産地では、どんな道具を使っているのでしょうか。
たとえば日高昆布。
漁期の前半と後半では、使う道具が変わります。
一方、高級だし昆布として知られる利尻昆布では、「ネジリシバ」や「カマ」と呼ばれる道具が使われます。
そして、この「カマ」を使う理由を調べていくと、
「良い昆布だけを選んで採る」
という、昆布漁のもう一つの姿が見えてきます。
なぜ産地によって、ここまで漁具が違うのか。
次回は、
第2回
「なぜ北海道の昆布漁は、産地によって道具まで違うのか ― 日高昆布・利尻昆布編」
として、2つの産地を比較してみたいと思います。
一本の昆布から、その土地の海を見る。
全4回にわたって、北海道の昆布漁の奥深さをお伝えしていきます。
吹田商店
_edited.jpg)




コメント